Film 7 : アヴェドンと映画『ファニーフェイス』

Film 7 × Photography

FUNNY FACE 『パリの恋人』

   


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         モード写真とカラー写真の〝大恋愛〟 

         

                             

           監督  スタンリー・ドーネン    

           出演  オードリー・ヘップバーンフレッド・アステア  

                  スージー・パーカー、ケイ・トムソン

          公開 1957年

                                             アカデミー賞脚本賞ノミネート

              アカデミー賞衣裳デザイン賞ノミネート 他

 

   大衆と夢見るようなファッション写真

 

 この作品で、映画とファッションは〈婚約〉した。映画における両者の〝恋愛関係〟はそれまでもしばしばみられたが、その多くは舞踏会や宮殿の間でのお披露目といった趣きか、歴史の中の絢爛な「衣裳」の再現だった。〈婚約〉の立ち会い人は、観客である〈大衆〉である。大戦で唯一本土に爆撃を受けていないアメリカで〈大衆〉が爆発していたのだ。

 

 アメリカの〈ゴールデン・エイジ〉と言われる一九五○年代、ファッションでも新しい無数の〝キャットウォーク〟が整いつつあった。新しいキャットウォークは、「ストリート」である。「ストリート」が、新しいカルチャーを放ちはじめていた。『ティファニーで朝食を』でも映し出された五番街は、大戦で疲弊したパリ、ロンドン、ベルリンに代わって、なんと魅力的でとした空気を醸し出していたことだろう。

 

 華やかなカラーファッション写真を大量に掲載しはじめた『ヴォーグ』や『ハーパース・バザー』に代表されるモード誌は家庭内を超えて、ストリートを刺激し初めていた。〈大衆〉はすでにアイドリング状態で待機していた。あとは〈大衆〉の好みをキャッチし、誘導し、何色に染めるかが問題だった。本映画では、その答えは「ピンク」だった。が、従来の上流階級然としたモデルでは「ピンク」は似合わない。

 

   そこからこの映画は動き出す。そう、問題はファッション・デザインではなく、〈大衆〉をその気にさせるピンク色にぴったりのモデルと、夢見るような〈ファッション写真〉が緊急に必要とされたのだ。

   


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    本作の監督スタンリー・ドーネン(代表作『踊る大紐育』『雨に歌えば』他)は、オードリー・ヘップバーン主役の映画では第三の監督と言われる。オードリーのセックスアピールではないピュアで妖精のような姿は、『ローマの休日』のウィリアム・ワイラーと『麗しのサブリナ』のビリー・ワイルダーの二人の巨匠が競い合いながら誕生させたものだった。

 

  その両作品で、オードリー自らの提案からすでにジバンシー・ファッションは導入されていたが、それはあくまでもスーパーヒロイン、オードリーのための特別なものであった。が、本作はそのストーリーからも伺えるように、〈大衆〉を取り込むことができるファッションこそが問題だった。

 

 

  そのための舞台が〈大衆〉と接点のなかったモード雑誌のエディティングルームであり、予想外のロケ現場であり、新たなファッションショーだった。そのことが監督スタンリー・ドーネンをして鮮やかな〈オールカラー・ファッション〉を全面に打ち出させることとなったのだ。

 

 

 色彩顧問はリチャード・アヴェドン

 

 当時、高級モード誌『ハーパース・バザー』のカリスマ・アート・ディレクター、アレクセイ・ブロドヴィッチのもとで革新的なファッション写真を打ち出していたリチャード・アヴェドンが色彩顧問(Technicolor Color Consultant)としてフィーチャーされることになる。色彩顧問といえどリチャード・アヴェドンならではのセンスがあらゆる面に発揮されているのは映画を見ればたちどころにわかる。


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   まずオープニングのタイトルバックのイメージには思わず膝を打つ。映画の内容をしっかりと受け止めた上でのあのスタイリッシュなつくり。4×5のカラーポジフィルムとなったオードリーの顔写真がライトボックスに映しだされると、そこにメイクアップされた〈ファニー・フェイス〉が鮮やかに浮かびあがる。

 

 

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