Film 4 : ヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』

Film 4 × Photography

Alice in the City

     都会のアリス


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      「イメージの国・アメリカ」で出会った少女との旅

 

            出演  リュディガー・フォーグラー、イェラ・ロットレンダー

         公開  1974年

 

 

 

 

                                                 

開発直後のポラロイドカメラ「SX - 70」を導入

 

 

 映画『都会のアリス』は、『さすらい』『事の次第』と共に、ヴィム・ヴェンダース初期〈On the Road〉三部作とされる。ヴェンダース二八歳の時の作品だ。このロード・ムーヴィーが制作されたのは一九七四年。同じ年、この映画に登場するあるモノが世界のマーケットに向けて発表された。「SX - 70」、ポラロイドカメラである。

 

「SX - 70」は現在に至るもカメラ史上、極めてエポックメイキングな存在で、また名品とされる。それは折り畳み機構を備えネガ・ポジ一体式、写したその場で現像され、まさに写したばかりの像が浮かびあがる、という革命的なカメラであった。

考案者はエドウィン・H・ランド博士。デザインは、ヘンリー・ドレフェス。レイモンド・ローウィティーグとともにアメリカのマシンエイジを代表するデザイナーのひとりだ。 PRムーヴィーは、革新的な家具デザインでもあまりにも有名なチャールズ・イームズによるディレクションである。

 

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 「SX - 70」の開発は二年前の一九七ニ年なので、ヴェンダースはどこかの段階でいち早くその情報をキャッチしていたとおもわれる。事実、『都会のアリス』の脚本を書いていた七三年当時、彼はそうした情報がいち早く入ってくるニューヨークにいた。

ヴェンダースは産まれたてのポラロイドカメラを早々試し、この新しい小さな映像メディアが映画に特別なものをもたらせてくれると予感した。

 

 ポラロイドカメラアメリカの現代文明のスピードと快楽を蝶番で束ねるような欲望の中から産まれてきたものだ。例えて言えばジュークボックスやピンボールのガジェットさに、インディレースのスピードを加えたような何ともアメリカらしいメディアである。

 

 

例えばヨーロッパの町並みにとって「SX - 70」のあまりに効率的で合理的なメカニズムは、元々写真が発明された地であるにもかかわらず、何かしっくりとこない。

七○年代後半から八○年代に、アンドレ・ケルテスやヘルムート・ニュートンらがポラロイド写真に熱心になったが、彼等の写真集ケルテスの『from my Window』やニュートンの『Pola Woman』を見ても、被写体は路上や戸外のものではなく薄暗い窓辺のオブジェであったり室内でのヌードだったりする。

 

 

 ポラロイド写真を映画に持ち込んだことで、映画は一気にヴェンダース的空気を漂わせることになった。ヴェンダース映画は、記憶していたもの、夢に見ていたもの、思い描いていたものと現実が奇妙なまでにかけ離れたりすれ違っていた時、作品が動き出すのだ。

都会のアリス』の場合でも、ドイツでの少年・青年時代にヴェンダースの心の中で神話的次元にまで高まっていたアメリカへの憧憬と、実際に訪れた時の落ち着きのない感や、すでに奪い去られていた神話、それらから来るイメージのギャップが動機の一つになっている。

 

主人公フィリップ・ウィンター(リュディガー・フォーグラー)はヴェンダース自身でもある。ヴェンダース映画とは、現実世界のヴェンダース的なあらわし方である。ヴェンダースなりの「現実」の作品化といってもいいだろう。

 

 

  アメリカの旅は、言葉でなくイメージなのだ

 

 

 映画は冒頭から「SX - 70」が登場する。主人公ウィンターが海辺でシャッターを押す。印画紙がマシンの口から無機的な音をともなって飛び出してくる。「視たものが写ってない…」とウィンターが呟く。

 

映画は冒頭1分で早くもヴェンダース調となる。ウィンターの表情は冴えない。気分は分裂している。「写真を撮る…耐えられないものを吹き飛ばす!」と車を運転しながらシャッターを押せば、「アメリカの旅は、イメージから起こる何かが大事だ…」と冷静に分析もする。

 

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